Adjust font size
Medium text size
Large text size

こどものウェルビーイングと未来を拓く“こども看護学”

 小児看護学とは,「こどもとその環境(人的環境としての家族/家族員を含む)を対象とし,こどものウェルビーイングと未来を拓く実践科学」であると私は定義している.こどものための学問という立ち位置から,誰にでも親しんでもらえて柔らかい印象を与える“こども”表記を採用し,私はこれを“こども看護学”と命名している.これは,こどもと環境との相互作用・交互作用を支援し,こどもの健全な成長・発達を保証する“こども支援学”ともいえる.
 私が主宰する神戸大学大学院保健学研究科家族看護学分野では,こども看護学と家族看護学の研究・教育・実践・社会貢献などに取り組んでいる.こども看護学と家族看護学などの集学的アプローチによって,こどもとその家族/家族員を支援することを眼目としている.
 こどもの笑顔は私の財産である.まさに“小児看護”は“笑児看護”であり,こどもとその家族の笑顔を守ることが,社会の公器である大学にいる私の使命である.こどものウェルビーイングと未来を拓くために,24時間眠らない法橋研究室は進化し,邁進し続けている.

“こども”表記に対する私の見解

 “子供”は,“こども”という大和言葉に漢字を当てはめた当て字である.“子供”は熟字訓に含まれておらず,“子”に複数を表す接尾語である“供”がついたものである.例えば,育児・介護休業法(育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)では,“子の看護休暇制度”と単数形になっている.現在,新聞やテレビ,小学校6年生以降の検定教科書(“子”は小学校1年生,“供”は小学校6年生で読みを学ぶ漢字)では,“子供”と表記されることが多い.
 近年,複数を表す“供”は,お供の“供”として大人の付随物を意味したり,供養の“供”などを字面から連想できることから,差別的表記であるという考えが広まり,“子供”を“子ども”と表記することが多くなっている.“子ども”と交ぜ書きすることによって,大人の従属物ではない人権をもったひととして捉えることを意図している.例えば,Convention on the Rights of the Childの訳語は“子どもの権利条約”,国立国会図書館の児童書専門図書館は“国際子ども図書館”となっている.
 さらに,“子供”“子ども”の表記に対する賛否両論(言葉狩り論争など)を受けて,この大和言葉をすべてひらがなで“こども”と表記し,柔らかい印象を与え,親しみやすい表記とすることもある.例えば,5月5日は“こどもの日”,青山通りにある総合児童センターは“こどもの城”,こどもの環境を学究するための学会は“こども環境学会”となっており,現在,私はこの立場を支持している.
 なお,元来,“子供”は“子”の複数形であるので,“子供たち”“子どもたち”“こどもたち”のような表記は間違えであり,違和感があるので,私は使用しない.

法橋尚宏

February 4, 2013